新時代の介護経営

苦しい介護保険事業

度重なる報酬削減、
人材不足による採用難
記録や請求などのリスク
利用者や家族からのクレーム

介護保険事業の経営を取り巻く環境は非常に厳しくなり、
さらにその厳しさが増していくことは想像に難くありません。

事業を拡大しないと未来がないし、
逆に今の報酬と人件費、建築コストのことを考えると
事業拡大も難しい。。。

一体どうすればいいんだという
本音を抱えている経営者の方も
多いのではないでしょうか。

しかも、今が一番悪い時期ではなく、
これからは労働人口が確実に減るし、
報酬が上がることも見込めないので
八方塞がりに感じられているかもしれません。

実際に私の知っている経営者は、
「ピンチはチャンスなんかじゃなくて、ピンチはピンチだ!」
と叫んでいます。

その通りだと思います。

 

このままでは介護保険事業の事業継続が
厳しくなる法人も多いでしょう。

大きなところに統合されるか、
飛び抜けて専門性を高め支持を受けているところ以外は
生き残ることがなかなか難しそうです。

しかし少し目線を変えてみると、意外と面白そうな事業発想へとつながります。

これを一つの読み物、視点を変えるものとして
本記事を読んでいただければ幸いです。

 

確実な未来予測

さて、経営の神様と言われるドラッカーは、
「人口構成が確実な未来予測」
と言っています。

言うまでもなく、29歳が翌年に30歳になります。
間違っても15歳が翌年30歳になることも、
50歳が翌年に30歳になることはありえません。

すると、人口構成、将来推計というのは
見逃せない『未来事実』であることがわかります。

 

余談ですが、
ある社会福祉法人のトップは

あと●年後にはこの地域の人口が●●人まで減る、
そうすると特養は継続できないから、
その時に更地にするための予算として、
これだけ用意しておく

と宣言されていました。

 

飲食店などでは撤退にもお金がかかるため、
事前にそこまで考えておくことはありますが、
介護業界でこのような撤退戦略を耳にしたのは初めてでした。

さらに撤退を視野に入れているだけでなく
人口推移から見た採用戦略や育成戦略、
その他の事業展開までも考えられています。

「すごい!」というよりもご本人の危機感が強く
そうしなければ生き残れないという想いによるものが大きいです。

色々な変動要素がある中で、「人口はすでに起こった未来」
ということで経営の中で外せない要素と話しています。

日本全体と自分の住んでいる県と市、そして周辺人口の推移から
これからどんな世界になるかをイメージして、
それに合わせて事業や戦略を考えることが重要です。

さて皆さんは
人口推移からの未来予測をされているでしょうか?

されていなければ、ぜひすることをお勧めします。

あらゆるサービス業が高齢者シフトせざるを得ない

そんな人口推移を考えると、
世の中にあるあらゆるサービス業が高齢者に向けて
事業を展開してくることは明らかです。

もちろん若年者向けのサービスも残るでしょうが、
そもそものボリュームゾーンが変わるわけです。

仮に若年層向けのサービスをするのであれば、
もう国内市場ではなく、アジア市場などに
目を向けて行かざるを得ないでしょう。

企業の使命は存続です。

すると、やはり人口(マーケット)の大きなところで
事業をすることは外すことのできない基本です。

この「高齢者シフト」の現象は
もちろんサービス業だけではなく、
小売業やメーカーに関しても同様のことがいえるでしょう。

介護人材を奪いにくる異業種

ここまでお伝えした通り
あらゆる産業が「高齢者シフト」しています。

さらにどの業界も人不足という状況で、
実は我々の介護人材市場が
草刈り場になっていることをご存知ですか?

以前KAIGO LABというウェブメディアで
「日本全体で人材が不足している中、介護業界は人材の草刈り場になる?」
という記事が出ました。

この記事で書かれている内容は、
私もまさに実感し始めていた内容そのものでした。
(そういう相談を受けたことがありました)

単純に人が足りないからという理由もありますし、
目端の利いた経営者からは「ビジネス的に考えて介護人材が良い」
ということで介護職員が奪われていっています。

どういうことかと言うと、
「顧客の高齢化」があるわけです。

わかりやすくお伝えするために、旅館業界を例にお話します。

これまでのお得意さんが、高齢化してきたため、
施設の段差が気になるし、そもそも全体も古くなってきたから
改修を検討したいけれど、そんな予算は作れない。
であれば、どうしよう・・・・!

『だったら顧客サービスとして介護技術を使おう!』

そうすると個別性の高いサービスかつコミュニケーションが生まれるので、
客単価も上がるし、旅館の評判も良くなります。
おそらく施設を改修するよりも、旅館スタッフの接遇などによって
過ごしやすさを高めた方が施設を綺麗にするよりも印象は良いでしょう。

さらにはニュース性もあるので、
もしかしたら広告効果も狙えるかもしれません。

施設改修に比べたら、コストパフォーマンスが
ずっと高いわけです。

しかもこの取り組みで上がった売上を元に
人件費にもかけることができるようになります。
そうすると、高待遇で介護職員を迎えることも現実的です。

介護保険事業は、国によって価格が決められています。
そのため勝手に単価をあげることもできず、
さらに人員基準が決まっていることから
最低限のコストも決まります。

つまり上限利益が決められているわけです。

しかし一般事業であれば、
単価そのものをあげることも、
オプションやお土産などの物販を絡めることで
客単価は青天井です。

このような視点があれば、
上記に挙げた旅館に限らず、
顧客が高齢化し、顧客接点が重要なビジネスにおいて
介護人材はとても魅力的な、かつコスパの良い
人材として映るわけです。

ここまでを見ると、
ますますの介護人材不足や人件費上昇のリスクを感じますが、
これも視点を変えると介護人材を抱えている介護事業所は、
その市場を取ることができるのではないかという仮説も浮かんできます。

ヤンキーの虎になれる介護事業者

藤野英人氏が書かれた「ヤンキーの虎」という本があり、
そこには、介護事業者にとって未来に向けた大きなヒントが記されています。

サブタイトルは
「新・ジモト経済の支配者たち」
というもの。

このサブタイトル、心が震えませんか?(笑)

 

冗談はさておき、地方での講演時によく伝えていることとして
(もちろん人口レベルに応じて数字は変えていますが)
地元で10億円レベルの売上高や
雇用を100人以上抱えているところは
役所や病院、そして大きな介護施設くらいしかない。

つまり地元経済において、実はトップクラスに
存在感が大きな業界が介護業界なんですと言うと
「確かに」となってくれます。
(しかも売上のほとんどは地元にとって外貨獲得なのです)

この地元経済において、従業員数も顧客数も
さらにはサービス内容からすれば顧客家族まで
影響下にあると言うことは、今の資源を正しく使えば
いわゆる保険外収益ではなく、経済の中心となれる可能性が十分にあるわけです。

では全く畑違いのことをゼロから始めるかと言うとそうではなく、
この本では「地域の中で『食える生態系』をつくる」と表現をしています。

本書の88ページの冒頭に書かれている文書を引用しますと
ヤンキーの虎は、地域の中で一つの「生態系」をつくっています。生態系とは、いくつかの企業がパートナーシップを組み、お互いの商品、技術、販売、資本などを生かしながら、消費者や社会を巻き込んで共存共栄していく仕組みです。
「商圏」とも言えるかもしれませんが、ヤンキーの虎の場合は、それよりももっと深い地域の文化や企業文化などを含めた「生態系」をつくっているという表現の方が正しいと思います。

何が言いたいかと言うと、
①協業
②傘下(グループ化)
③企業リノベーション
などを地域の既存企業と行うことで、地域経済を活性化することできます。

 

ここまであらゆる産業の中で顧客が高齢化したとお伝えしました。
しかしながら多くの企業(商店)はその高齢化に合わせた対応はできていません。
そこで商品開発や販売、物流(ラストワンマイル)の部分を協力することで、①協業が実現します。

同時にその企業の経営者や店主たちも高齢化し始め、さらに子ども達は都市部に行ってしまったがために後継者難も進んでいます。

そこで、自社の傘下に参加してもらう(加える)ということもあり得るわけです。
本書にも書かれていますが、経営感覚がある人材を育てるのは大変ですが、すでに経営を行っていた方に助けてもらえばその部分は解決されます。さらにバックオフィスの部分は本部で行えば、負担も減り活躍をし続けてもらうことも可能です。そうすれば②傘下に入ってもらうことが実現します。

そしてより高齢者シフトした方が良い、サービス業であれば法人内ではなくグループ内でキャリアパスを作れば、その事業そのものの③リノベーションすら実現が可能です。

①⇨③に向かうほど難易度が高くなるため、経営がわかり実行できる人材のサポートが必要になりますが、それでもこれまで介護事業で培ってきた経験が生きるのを感じていただけたかと思います。

いわゆる多角化ではない。

バブル期の印象で事業の多角化が恐ろしいと
感じられている方も多いと思います。

確かに多角化で失敗した企業も多いです。
しかしその時にはバブル景気や地価高騰に浮かれ、
本業からかけ離れた事業や不動産に手をつけての
破滅というケースが多かったです。

しかしこれから行うのは、
安定的な介護保険収益には手をつけず、
その周辺分野において
これまで得てきた知見やネットワークを
活かして行うものです。

本業である介護事業でも、新たな顧客接点もできます。
さらに、介護保険事業のいちばんの難しさでもある、
介護サービス利用への高いハードルを
乗り越えるきっかけにもなります。

介護というと、一般の方の中には寝たきりを想像する方が
とても多くいらっしゃいます。
しかし介護事業者からしてみれば、
もっと早くからうちのサービスを利用してくれれば、
自宅での生活も楽になるのにと悩ましい部分でもあります。

そこで地域住民の身の回りに介護のことがわかるサービスが
増えると、介護そのものが身近になり集客やスキルアップなどの効果も出てきます。

 

さらにもう一つの大きな視点として、
『地域そのものを福祉にしてしまう』という発想にもつながります。
今の介護保険サービスは人生の中の一部である生活の中でも、さらに一部を担うモノですが、
高齢者の身体的なバリアや生活上の悩みがわかる介護事業者が
地域の経済の中心となってコーディネートすると、地域そのものが福祉となり
ずっと生活しやすくなると思います。

現在、介護保険上言われている
「地域包括ケアシステム」
をさらに包み込んだ生活をしやすい地域を作り上げられると思います。

まさに社会福祉という概念になるのではないでしょうか。

介護報酬以外が幹部人材の原資となる

今後、介護報酬単価は下がっていくのは間違いありません。

それは生産年齢人口が減少し、
社会保障を受ける人口が増えるわけなので、
客単価を下げなければそもそも制度の継続すら
難しいわけですから仕方がないことです。

しかし組織として、人材を育てていく上では
能力に応じた昇給もしなければならないですし、
ますます経営環境が悪くなってくると、
優秀な人材が幹部にいなければ事業を回すことも
難しくなってきます。

すると、その原資が必要となります。

そこで今回の記事のタイトルである
『新時代の介護経営』
という話になってくるのです。

最近では、施設長以上の人材は介護保険事業以外で事業を行い、
そこの収益で幹部人材の人件費を出すという
社会福祉法人をちらほらと聞くようになりました。

もちろん、その事業は関連の株式会社で行うわけです。
内容は、コンサルティングや研修企画、消耗品の卸、不動産管理、
自費リハビリ施設など様々です。

これらの事業で、優秀な経営感覚の持つ人材を留める、
もしくは育てながらグループとして強固な経営体を目指していくというのが、
社会保障費に頼りきれない組織を抱えるひとつの未来の姿ではないでしょうか?

そうすると、その法人グループの中での
キャリアパスが異質なものになるかもしれません。

介護施設内で介護技術を一通り学ぶ、
そしてその知見を生かして、
グループ内の事業運営を行う、
もしくはグループ内外に対して講師や指導を
行うようになるなんてこともあり得ます。

そこからは介護報酬とは違う予算がつくので、
人件費を高めることも可能になってきます。

介護技術+経営や
介護技術+コーチングや
介護技術+映像処理

などの掛け合わせキャリアをすることで、
実は様々な収益のタネが眠っています。

さらに、そこに外国語などを掛け合わせると
また面白いことになっていくのではないかと思います。

新たな事業のポイント

新事業をする際に一番困難なのは、
お客様集めと、サービスを作り上げるためのお客様の声です。

しかし介護事業をしているあなたには、
すでにその両方を手に入れるための準備があります。

実際にサービスの提供を始めてみて、
本当にニーズがあるのか、その値付けは正解なのか、
しっかりと固めてから事業を開始できます。

さらにスタッフも新たに採用をしなくても
テストをできる環境があるわけです。

グループ化に関しても最初は協業体制を取ることで
リスクなく、スタートし、今いる利用者様に
喜んでもらうことも可能です。

やらない理由はないと思います。
この記事を書いた当初は地方の社会福祉法人を
思い浮かべました。

だから社会福祉法人だから関係ないというのではなく、
地域を担う社会福祉法人だからこそ、どのように地域連携を図るのか、
地域住民である職員の生活をどう考えるのか、
そして経営者として、事業の永続性をどう考えるのか、
それらの一ヒントになったなら幸いです。